経絡治療による花粉症の治療
当院の2割の患者さんは花粉症を患っています。
以前から花粉症の治療には興味があり、毎年花粉の飛散する時期が来ると、
奇経治療、灸治療などを加える方法を行いながら試行錯誤を繰り返して来ました。
しかしほとんど反応がないので、経絡治療は花粉症に対して効果はないのだろうと
思っていました。
東京周辺の今年(2019年)の花粉飛散状況は、かなり悲惨な予報が報告されています。
15年以上毎月1回健康管理で、当院に通い続けている40歳前半の女性患者さんが、
来院するやいなや目のかゆみ、喉のイガイガとかゆみを訴えました。
彼女の気持ちは、毎年のことですので、治療で何とかして欲しい訳ではなく、耐え難い思いを聞いてもらいたいのでした。
事実、経絡治療は症状の辛い箇所に鍼を行うわけではないので、訴えられても手の施しようがないのです。
そう言う訳で、以前からこの時期になると花粉症のつらさを訴えて来る患者さんの主訴は無視せざるを得ません。
したがって、この40台の女性に対する鍼も、証を立てて常と変わらぬ同様の治療を
行いました。
証は、肝虚脾実で69難型の治療を行いました。
ところが、治療後彼女は、「目が楽になった。目がパッチリ開く!」と、言うのです。
私は驚いて、「えっ!!本当?」と、思わず尋ねました。
彼女ははっきりと「ええ。喉も楽になりました。」と、言って嬉しそうにうなづくのでした。
スギ花粉症を訴える患者さんの昨年(2018年)のカルテを見ると、治療後の結果、
なんとなく楽になったと、答えた人も何人かいましたが、ほとんどの患者さんは変化なく
つらいと、答えていました。
ところが、「今年は楽です。」と、全ての患者さんが答えるのです。
「何故だろうか?」と、試案しています。
とりあえず、昨年の治療法と今年のそれを比較してみることにしました。
私の治療は、中国医学の古典である「難経」の中の「69難、75難、77難そして81難」に
「黄帝内経霊枢」に有る「経別11と経筋13」を併用する方法です。
簡単に説明すると、患者さんの脈と腹部の診断から証(あかし:患者さんの状態と同時に
治療法)が決まると、上で述べた4種類の難の一つが決定します。
これに上述した「霊枢」とを組み合わせて刺鍼する方法です。
昨年は、従来の治療法を変えたケースが2例ありました。
一つは、「77難」を読み返している時、全く逆に理解していることに気付きました。
この77難型は、「未病を治す」と、されている治療方です。
結果、思いがけない効果が有りました。
身体は加齢と共に、経絡の流れが滞り勝ちになります。関節部に特に顕著に表れて来ます。
その結果放置していると、石灰化が始まり、身体の動きが緩慢になってきます。
しばらく前から話題になっているロコモティブ症候群です。
この状態が、徐々に改善するようになりました。驚きでした。
しかし花粉症の改善に関しては不明ですが、関係ないように思われます。
二つ目は、刺鍼の順序を変えました。
今までは鍼を刺す順番は経験的に行って来ました。
昨年2018年11月の臨床中、今まで通り同じ方法で刺鍼を行っているにもかかわらず、
何故か腹部の緊張が中々取れません。
思いあぐねた結果、改めて最初から鍼を行うことにし、刺鍼の度に腹部の反応を
観察しました。
鍼の効果は腹部の緊張を除くことを主眼とし、常にその反応を注目しているからです。
その結果、治療は満足できるものでした。
しかし、この作業は今までの刺鍼の順序をかなり変えることになりました。
その結果に驚くと同時に、20数年余の間、継けて来た習慣的治療法に何の疑問を
抱かなかった己にとって、少し複雑な気持ちに陥りました。
ともあれ、刺鍼の順番がこれ程影響するとは思いませんでした。
以上、昨年の11月から今日に至るまでに、治療法を変えたのは上に記載した2例で、
もし鍼が花粉症に影響を及ぼしたと仮定するなら、多分刺鍼の順番を変えた効果であると思います。
症例:
1) 患者:70歳前半の中肉中背の女性。
主訴:
慢性的肩こりと腰痛に加えて、3月に入って花粉症による鼻詰まりでよく眠れない。
職業は病院でのまかない。立ち仕事で腰痛と野菜の刻みで肩こり。
証:腎虚脾実の81難型。
(注)腎虚とは肺と腎が虚する症状です。
治療後、鼻詰まりは解消し、腰痛肩こりも改善しました。
2)患者:上述した花粉症を訴えた40台の女性。
主訴:
黄砂による少し目のかゆみ。
先月の治療後、スギ花粉による目のかゆみはなかった。
ちなみに、スギ花粉が舞い散る登山を行った時、昨年は自分の持参したチッッシュ ボックスが足らず
友人の物を使い果たしたほど苦しんだにも拘わらず、今年はほとんど必要がなかったと、言い、
友人は鼻水に耐えながら、それを見て不思議がっていたとの事でした。
治療:証は肝虚脾実で、69難型でした。
結果:目のかゆみはかいしょうした。
3)患者 50歳前半の男性。身長168cm、体重58kg
主訴は疲れやすい。昨年までは花粉症とアレルギー性喘息で悩んでいた。
今年(2019年)に入って、他の患者さんの花粉症が改善したのをきっかけに、しばらく
訴えのない喘息の症状を尋ねました。
6月現在、答えは、今年になって一回も発作を起こしていないとの事で、花粉症も無事に過ごしたのでした。
4)患者:自分自身
入梅の時期が来るたびに、毎年温度変化による寒冷性鼻炎を起こし、ティッシュを離せない状況が続いていました。
それでも、銀粒鍼を利用した奇形治療を行うとその年の鼻炎は解消できました。
ところが、気が付いてみれば、今年は全く鼻炎を起こしていません。
これも刺鍼の順序を変えた結果としか理解できません。
刺鍼の順番を変えた結果、花粉症が改善したと仮定して、その理由を考察してみました。
五行色体表とは、 五行の性質に臓腑の関連する性質や生理、病理、病状を当てはめ、医学に
応用したものです。
この色体表は身体の中を知るためには重要な手掛かりになる項目です。
五行色体表(抜粋)
_________________________________________
五臓: 肝・心・脾・肺・腎
五根: 目・舌・口唇・鼻・耳
五液: 涙・汗・涎・涕(鼻水)・唾
_________________________________________
例えば目がかゆい時や涙が出る時:肝が司ります。
鼻が詰まったり、鼻水が出たりあるいはかゆい時は、肺が司ります。
以前、刺鍼の順序は、例えば証が肝虚脾実(69難型)の時以下のように行いました。
左右の順番は、患者さんの性別の違いや訴える症状が左右で優劣が有るか否かなどを
判断して行います。
それが決まると、例えば左の足から始めるとすれば、左の 腎経の経穴(つぼ)と肝経の
経穴を選び、その後右の腎経と肝経の経穴に刺鍼しました。
新しい刺鍼法は、左の腎経から始め、次に反対の右足に移ります。
右の腎経かあるいは肝経かの判断は、患者さんの反応に従います。勿論、以前と同じように左の腎経と肝経を刺鍼することも有ります。
要するに、従来の習慣的な刺鍼ではなく、全て患者さんに従って刺鍼することです。
この方法が花粉症に効果が有ったのか否かは、現時点では判断できません。
しかし花粉症、アレルギー性喘息や寒冷性鼻炎などが解消できたのは、事実であることは確かです。
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